小坂明子「あなた」の歌詞を通して推測する「サトミちゃんちの1男子」今後の展開
2013/12/30(Mon)
※本記事は角川つばさ文庫の人気作品「サトミちゃんちの8男子」及び「サトミちゃんちの1男子」のネタバレを前提として書かれた記事です。予めご了承ください。
※なお本来なら読書カテゴリに属するのが適当な記事であるが、八犬伝の内容に言及する部分も含むので、八犬伝カテゴリに分類した。

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(2011/08/15)
こぐれ 京

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「サトミちゃんちの8男子」(以下「サト8」)は1巻からシリーズを通して登場する実在の歌謡曲がある。小坂明子の「あなた」である。


1973年12月21日に発売され、先日で発売40周年を迎えたこととなる。小坂の代表曲であるが他の曲があまりに知られていないためいわゆる「一発屋」のイメージがつきまとっているが、本人は現在作曲家であり、セーラームーンのエンディング曲の一つである「タキシードミラージュ」なんかを作曲していたりして驚いたものだ。
この「あなた」は、動画を検索するとおわかりであろうが、数多くのアーティストにカバーされている。私が奉ずるアーティスト・aikoもかつてオールナイトニッポンコムでの名物コーナー「歌え!aiko」で歌ったこともある。(なお大したことではないが先日発送されたファンクラブ会報に歌詞を一部引用していたりもする) また2011年のアニメ「輪るピングドラム」でもほんの少しであるが挿入歌として流れていた。

そんな人気曲であるが、しかしその歌詞は、サビの最後の1、2行でそれまでの歌詞が全て否定されてしまうというとんでもないものだったりもする。

 それが私の夢だったのよ
 いとしいあなたは 今どこに

wikipediaには「既に去った恋人との新婚生活を想像する女性の思いを歌った曲」とある。この歌詞の直前までは、幸せそのものの二人の理想が描かれているので、サビの一部だけ聴いて勘違いしている人も多いかもしれない。2008年のLLP11大阪公演の際、この曲が失恋を歌っていると気付き、aikoが慌てる、と言うことさえあった(詳しくはライブレポ参照)
今回は、普段私が行う作家研究的要素も含むaikoの歌詞研究とは違って、歌詞そのままと私の印象を以て語るテクスト論風の方法で行くことにする(と言うか本来歌詞と言うのはそうやって研究されるべきものだが) どことなくこの曲には、曲調も歌詞の書き方も、かなり儚さの度合いが強いように思われる。キラキラしている世界だが、それは本当に“夢”の世界のように思う。夢から覚めたそこには「あなた」はおらず、砂漠が広がる無味乾燥の世界なのかもしれない。

以下、長くなるので続きに収納する。「サト8」と「サト1」のネタバレを当然含むので、注意頂きたい。



最初に書いた通り、サト8及び「サトミちゃんちの1男子」(以下サト1)には「あなた」が繰り返し登場する。実在する曲をわざわざ引用するのであるから、そこに込められた意味ないしは意図が微量なりとも存在するはずである。
「あなた」は一聴して分かる通り恋の曲である。サトミシリーズでは主人公・里見サトミと、彼女の周りの通称・呪われ男子(8男子)と呼ばれる七人の美少年(作中の表記に従うならイケメン)+(何故か)コアラ一匹を中心として話が描かれていくが、「恋」が明確な主題となって展開されていくのは「サト1」(13年12月現在二巻まで刊行中)からである。「サト8」でもソウスケがサトミに告白をしていたり、サトミの友人・カオルンが恋愛体質な少女であるため度々サトミに恋愛の話題を振ったりするが、サトミ自身が恋を自覚していく、年頃を考えるならば“初恋”のフェーズに入ったのが「サト1」である。最新刊の二巻ではついにサトミ自身が「恋なんだよ!」と宣言してしまう。読者側も「これは恋物語である」と覚悟しなくてはいけない段階になったのだ。ここからサトミとムラサメの物語が始まるのだと。

「サト1」の前の「サト8」、そのタイトルにある「8男子」とは呪われ男子の七人と一匹であった。サトミが彼らの呪いを解き、絆を結ぶことが物語の目的であり主題であった。言うなればサトミと8男子達の物語であった。作品のモチーフである南総里見八犬伝に即して言うならば、珠を持つ犬士達を見つけていくくだりにあたるだろうか。
では「サト1」のタイトルの「1男子」とは何なのだろうか? いや、簡単過ぎる話だ。それが「サト1」で登場したムラサメであることは自明ではないか。と言うことは、ついさっき書いたように、「サト1」は「サトミとムラサメの物語」なのだ。何故そうなるか? ムラサメが他の8男子とは違い、特別な存在――「初恋の男の子」「初めて付き合う男の子」だからではないか。誰だって「初めて」は一回こっきり、なのだから。そう、「1男子」とは端的に表すならば「初恋の人」なのだ。「サト1」は恋物語であるが、「初恋物語」なのだ。一回だけ、の。
でも「初恋」が一回だけ、ならば、同じように言えるものがある。――「初めての失恋」もまた、「一回だけ」なのだ。

そこで改めて小坂明子の「あなた」の歌詞について考えてみよう。
「あなた」の中で、「あなた」は、はっきりと「いる」と歌われない。「あなたがいるのよ」ではなく、「あなたがいてほしい」と、一貫して“願い”の形で歌われている。この曲が願望を歌った歌で、かつ「いとしいあなたは今どこに」と綴られるようにその「あなた」は既に私から失われた状態である。「それが二人の望みだったのよ」と、「あなた」もかつてそれを望んでいたはずなのに。
それが初恋の人であるのかどうかは誤差の範囲内というか、些細な問題である。わざわざ小坂明子の「あなた」を持ちだして書いているので、さくっと結論を書いてしまおう。「1男子」の本当の意味とは、この「あなた」で歌われる「あなた」のことなのではないのだろうか?
「あなた」は今更書くまでもなく二人称単数であり、「8男子」と言う複数を指すものではない。「1男子」――たった一人を指すもの、ではないか。そして「たった一人の男の子」と言うのなら、先述したように「初恋の男の子」がそれであり、同時に、「初めて失恋した男の子」もそうであるはずだ。
わりとしつこく書いておこう。松任谷由実が「未来は霧の中」(1979年)で「初恋なくして もう恋はみんな同じ」と歌っているように、「初恋」は誰にとっても特別なものなのだ。(そしてそれ以降の恋は名目上すべて同じ「恋」となる) その「初恋の人」は、誰にでもいるはずで、いつまでも特別な“一人の人”として、その人の中にあり続ける。それがたとえ、よろこばしくない思い出であったり、悲しい結末を辿っていたとしても。

「サト1」は、だから、サトミの「初恋」を描くと同時に、サトミにとってはつらいことだが、「失恋」を描く話になるのではないかと思う。「あなた」の「あなた」=1男子が既にいない人であるなら、恋の相手であるムラサメもまた、消失の道を辿らざるを得ない。二巻において発覚した事実であるが、ムラサメは私が予想していた通り人外であった。人外であるなら尚更、サトミが辿る恋路は過酷なものであるだろう。
ここで私の個人的な想いを書くなら、8男子の内最もフラグの立っているブンゴとの恋を応援していたので、ムラサメには「横からサトミを奪いやがってこんちくしょう」と言う気持ちがある。ネットスラングと言うか、エロゲー用語を持ちだすならいわゆる「NTR(寝取り・寝取られ)」に当たり、これが地雷(苦手とする傾向・シチュ・ジャンル等)である私にとっては、どうにももやっとしている。(でも別にそこまでカーッ!となるほど不満と言うわけではない。「魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語」に抱いた2013年一番のモヤモヤ感に比べたら可愛いものである) 少女漫画で望まぬカプを強いられた人の気持ちはこんな感じなのだろうか。

今後の展開を推測する、と記事タイトルにつけたので、あくまで推測を書いておこう。
「サト1」は、ムラサメの消失を以て終わるのではないだろうか。思えば南総里見八犬伝でも、ムラサメの元ネタである村雨丸は信乃の佩刀で終わるのではなく、物語終盤できちんと足利持氏に返還されるのである。そもそも村雨丸は最初から「借り物(託されたもの)」に過ぎず、あくまでも「返上する」ことが目的として存在していた。最初から、「物語から消える運命」にあるものだった、と言うのは、さすがに書き過ぎであろうか。
では主人公であるサトミは「サト1」で何を得るのか。それは、サトミに欠けていた感情である「恋愛感情」である。「サト1」とはサトミの初恋のフェーズであると同時に、恋愛を経験するフェーズであるのだ。そして初めての失恋を乗り越えたサトミは、初めて8男子達の想いと自分の想いに向き合おうとするだろう。いや、男子達の想いは既に「サト1」で明かされていたりもする。二巻ではついにミッチーがサトミに告白してしまうのだから(それも、絶好のシチュエーションで) ソウスケは既に想いを伝えているし、残りの男子もサト1の中でムラサメの存在にめげず想いを伝えていくのかもしれない。
まあ、それはともかく、なんにせよ、サトミには辛い日々が始まる、もしくは辛い現実にぶち当たる、辛い結末を迎えるかもしれない。恋っていうのは楽しいだけじゃない。むしろ楽しいことより辛いことや苦しいこと、切ないこと、寂しいこと、嫌なことの方がずっと多いのだ。しかし、たとえどのような終わりを迎えたにしろ、そんな時にこそ、8男子達は彼女を支えてくれると思う。「サト1」二巻でシノが言ったように「家族」なのだから。私がサト8のサトミと男子達が好きなのは、仲間であると同時に、掛け替えのない「家族」であるからなのだ。

そんなことを書いたら書きにくくなるが、更に今後の展開を予想するとなると、恋を経験したサトミは、ついに8男子の内から一人を選ぶという新シリーズが始まるのではないだろうか。ちょうど中学三年生に進級するのと同じくらいの頃に始まればキリもいいだろう。
しかし、誰か一人を選ぶと言うことは、残酷なことを書くが、他の誰かを捨てると言うことだ。しかし私達は毎日の何気ない選択で、無数の未来を捨てて一つの今を選んでいる。
だが人は生きている。そこに感情がある。誰も傷つかずに生きていけないし、傷つけずに生きていけない。
誰も選ばずにいる博愛は時に残酷で、多くの誰かを傷つけることにもなる。潔く自分の気持ちを告白したミッチーやソウスケに比べて、逃げ続けているサトミ(=博愛)ははっきり言って、卑怯である。読者は煮え切れない気持ちを主人公である彼女に抱かざるを得ないし、オブラートに包まずに書くならば、ムカついたり、イライラしたり、はっきりしろよ! と不満を抱くことだろう。
サトミは8男子とは現状を維持したいと考えている。けれども「現状を維持」し続けることなど、出来ないのだ。時は常にゴウゴウと動いている。ゆえに二巻において、サトミは意外な方向へ動き出した。結果として、博愛なるサトミは別勢力の男子を選んだ。それが本当に恋なのか私にはまだ判断がつかないが、サトミが言うなら、恋なのだろう。
誰か一人を選ぶ愛は、確かに、残酷かもしれない。けれども、勇敢である。恋愛においては、私は博愛よりもずっと正しいものだと思う。時に誰かを傷つけ、関係を破壊することが、より共同体(サトミちゃんち)を強固にしていくかもしれないならば――サトミは求愛する男子達の一人を選ぶことになるだろう。その男子が、きっともう一人の「1男子」となるのだろう。

以上で論考を終える。なお本記事はあくまでも一読者に過ぎない私による勝手な考察と妄想であるので、ストーリー展開が外れてもあげつらったりしないで頂けるとありがたい。
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